強制送還とは通称です

「強制送還」は時々耳にしますが、正式には「退去強制」といいます。日本には令和6年1月1日現在で8万人近くの不法残留者がいます。

退去強制は、出入国の公正な管理を図るための措置として、日本の社会に好ましくないと認められる一定の外国人を法で定める手続きによって国外へ退去させる制度です。

退去強制の事由

何をすれば退去強制されるのか、これも法律で定められています。多少簡略化していますが、以下のとおりです。

  1. 不法入国者
    有効なパスポートを所持せずに日本に入国した者
  2. 不法上陸者
    上陸許可を受けることなく日本に上陸した者
  3. 偽造・変造した文書を作成・提供した者
    パスポートや書類を偽造・変造により作成や提供をした者で、これを幇助した者も含む
  4. 資格外活動者
    在留資格で認められた活動以外のことを行った者
  5. 不法残留者(オーバーステイ)
    在留期間を徒過して日本にいる者
  6. 犯罪行為
    住居侵入、偽造、賭博、殺人、傷害、逮捕・監禁、脅迫、誘拐、窃盗、強盗、詐欺、恐喝などの犯罪により、1年を超える懲役や禁錮に処せられた者
  7. 売春関係の業務に従事した者
    刑に処せられたかどうかは関係なく、売春関係の業務に従事すると対象となる
  8. 出国命令違反者
    出国命令に従わなかった者

退去強制の流れ(簡略化しています)

  1. 違反発覚
  2. 違反調査・出頭申告
    入国警備官が、退去強制事由に該当すると思われる外国人を調査する。出頭申告は、外国人自らが地方出入国在留管理局に出頭してその容疑を申告すること
  3. 引渡し
    入国警備官は、監理措置が決定された場合を除き、違反調査により容疑者を収容したときは、身体を拘束した時から48時間以内に、調書及び証拠物とともに、その容疑者を入国審査官に引き渡す
  4. 違反審査
    入国審査官は、容疑者が退去強制対象者に該当するか否かを速やかに審査し、該当すると認定し、容疑者も認めて帰国を希望するときは、退去強制令書が発付され、退去強制される。容疑者が否認したときは、口頭審理を請求できる。また、希望により在留特別許可申請も可能。なお、出国命令対象者に該当して出国命令を受けたときは、入国審査官は直ちにその者を放免しなければならない
  5. 口頭審理
    認定の通知を受けた日から3日以内に口頭をもって特別審理官に対し、口頭審理を請求し、審問が行われる
  6. 異議の申出
    入国審査官の認定、特別審理官の判定を経て、容疑者が、その判定が誤っていると主張したときは、その判定の通知を受けた日から3日以内に不服の事由を記載した書面を主任審査官に提出して、最終的な判断を法務大臣に求めることができる
  7. 法務大臣の裁決
    入国警備官の違反調査、入国審査官の違反審査、特別審理官の口頭審理という一連の手続で作成された証拠を調べて裁決する
  8. 在留特別許可
    法務大臣は、外国人が退去強制対象者に該当する場合であっても、以下のいずれかに該当するときは、申請又は職権により、在留を特別に許可できる。ただし、一定の要件に該当する場合は、在留を許可しないことが、人道上の配慮に欠けると認められる特別の事情があると認めるときに限られる。
    (1) 永住許可を受けており、日本国民として本邦に本籍を有したことがある
    (2) 人身取引等により他人の支配下に置かれて本邦に在留するものである
    (3) 難民の認定又は補完的保護対象者の認定を受けている
    (4)その他法務大臣が特別に在留を許可すべき事情があると認める場合
  9. 退去強制令書の発付
    退去強制令書が発付されたときから我が国から退去させられることが確定した人となり、容疑者ではなく被退去強制者となる
  10. 退去強制令書の執行
    入国警備官は、外国人に退去強制令書又はその写しを示して、速やかにその外国人を送還しなければならない。直ちに送還することができないときは、監理措置に付すか収容するかを審査する

退去強制後の日本への再入国

退去強制により出国した者が、再び日本に入国しようとする場合、以下のように日本への入国は禁止されます。

  1. 退去強制された者の上陸拒否期間
    ⇒退去強制された日から5年間
  2. 過去に日本から退去強制されたり、出国命令を受けて出国したことがある者
    ⇒退去強制された日から10年間
  3. 1年以上の懲役又は禁錮等、麻薬等薬物の取締りに関する法律違反で刑に処せられた者は、上陸拒否期間に定めはなく、日本に上陸することはできない

出国命令とは

出国命令とは、入管法違反者のうち、一定の要件を満たす不法残留者について、収容をしないまま簡易的手続きで出国させる制度です。出国命令対象者は入管法第24条の3で規定されている以下のすべてに該当する不法残留者です。

  1. ①又は②のいずれかを満たすこと
    ①入国警備官の違反調査の開始前に、出頭申告したこと
    ②入国警備官の違反調査の開始後、入国審査官の違反審査により退去強制事由に該当する旨の通知を受ける前に、速やかに出国する意思があることを入国審査官又は入国警備官に表明したこと
  2. 不法残留以外の退去強制事由に該当しないこと
  3. 窃盗罪等の一定の罪により懲役又は禁錮に処せられたものでないこと
  4. 過去に本邦から退去強制されたこと又は出国命令を受けて出国したことがないこと
  5. 速やかに日本から出国することが確実と見込まれること

出頭申告とは

出頭申告は「自首」のようなものです。在留カード、パスポートを持参して自らの違法行為を申告します。出頭申告は、札幌、仙台、東京、名古屋、大阪、広島、高松、福岡の地方出入国在留管理局または、横浜、神戸、那覇の地方出入国在留管理局支局に出頭してします。

個別の状況にもよりますが、出頭してから出国命令書の交付を受けて出国するまでおおむね2週間程度を要します。

出頭申告をしても不法残留等の状態が解消されたわけではないので、法務大臣から在留特別許可を認められない限り、入管法に違反していることに変わりはありません。

出国命令後の日本への再入国

出国命令により出国した者が、再び日本に入国しようとする場合、以下のように日本への入国は禁止されます。退去強制のケースと比較すると基準は緩やかです。

  1. 入国警備官の違反調査の開始前に、出頭申告したこと
    ⇒原則、出国した日から1年間
  2. 入国警備官の違反調査の開始後、入国審査官の違反審査により退去強制事由に該当する旨の通知を受ける前に、速やかに出国する意思があることを入国審査官又は入国警備官に表明したこと
    ⇒原則、出国した日から1年間だが、短期滞在で入国しようとする場合は5年間

 

退去強制はオーバーステイでも該当します。日本の法令を遵守し、適法に仕事をしていても在留資格更新許可申請を怠ると退去強制の憂き目にあってしまいます。

 

今回の記事はここまでです。

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