農地の所有者が変わる場合

田や畑といった農地を、農地のままで売買する場合は農地の所有者が変わることになります。この場合は農地法3条の許可申請が必要です。所有者が変わるということは移転登記をしなければならず、移転登記をするには農業委員会の許可が必要だからです。

なお、農地法3条許可申請は農地の所有者が変わる手続きですので、農地のままで残ることになります。これが農地ではなく宅地や雑種地など農地以外の地目に変更される場合は農地法3条ではなく農地法4条もしくは5条の農地転用許可申請になりますのでご注意ください。農地転用4条は所有者に変更が無い場合、農地転用5条は所有者が変更になる場合の手続きです。

相続によって農地を取得した場合

では、売買ではなく農地を相続した場合も農地法3条許可申請が必要なのでしょうか?答えは、許可は不要です。農地の所有者から相続で農地取得した場合、農業委員会へ届出をすることになります。

農地を相続によって取得した方は、相続で権利を取得したことを知ったときから10か月以内に農業委員会に農地法第3条の3の届出をしなければ罰則もあります。相続によって農地を取得された相続人は、忘れずに届出しなければなりません。この手続きは届出なので許可申請とは異なり、許可要件等はありません。

農地相続の届出

では、農地を相続した場合の届出はどうすればいいか。農業委員会への届出の前に、農地の相続登記をしなければなりません。当記事は農地の相続にフォーカスして記述していますが、実際には、相続手続きは他にもやらなければならないことがたくさんあります。

相続手続きは、遺言書がある場合と無い場合によってその内容が大きく異なります。「長男がすべて相続する、娘は嫁いでいるから対象外」など、とんでもなく間違ったことをする方もおられるのが現実ですが、基本通りに相続手続きをすすめることを推奨します。相続人を確定し、遺産を確定し、相続税申告が必要か否かを確認し、遺言書が無い場合は相続人全員で遺産分割協議を行い、その証として遺産分割協議書を作成し、遺産分割をします。遺産の中に不動産があれば、遺産分割として相続登記をすることになるのです。

さて、農地相続の届出は、相続登記をした後で、法務局で登記事項証明書(登記簿謄本です)を取得します。登記事項証明書を確認すると、旧所有者から新所有者へ相続によって所有権が移転されたことが記載されているはずです。この登記事項証明書を、作成した届出書に添付して農業委員会へ届け出ます。

農地を相続したときの届出は、相続登記をした後でしかできないことになります。相続登記をするためには誰が当該農地を相続するのかを遺産分割協議で決めなければなりません。遺産分割協議をするためには相続人全員でしなけれななりません。相続人全員でするためには戸籍謄本等で相続人の確定および遺産の確定をする必要があります。このように農地を相続したときの届出は一番最後にする手続きといえます。

まずは相続手続きをする必要がある

実際の相続手続きでも一番最後にするのは「遺産の分割」です。現金、預貯金、不動産、有価証券、自動車、動産といった遺産を「誰がどれだけ」相続するのかを遺産分割協議で決めるのです。相続手続きは専門家が多岐にわたります。これだけの士業が関わる手続きは相続ぐらいのものです。

弁護士は相続に関して紛争になったとき調停や訴訟の代理及び相手方との交渉をします。司法書士は遺産に不動産がある場合、遺産分割協議書または遺言書の内容に沿って相続登記の手続きをします。行政書士は遺産分割協議書、相続関係説明図、遺産目録、法定相続情報一覧図など相続手続きに必要となる書類を作成します。税理士は相続税が課せられる場合に相続税申告をします。

また、相続税申告には控除というものがあります。基礎控除の額は【3,000万円+法定相続人の人数×600万円】です。仮に相続人は子が3人のケースでは、3,000万円+3人×600万円なので4,800万円です。よって、いさんが4,800万円までなら相続税はかかりません。相続の場合はすべて相続税を支払わなければならないと思っている方が多いですが、そうではありません。

このように相続には複数の士業が関わることが多く、遺産分割をする際に、不動産は司法書士に依頼するとして、預貯金は相続人でも出来る手続きですから、不動産と現預金だけの手続きをしてあとは失念することも少なくありません。農地相続の届出も農地転用に精通している行政書士以外ではピンと来ませんし、行政書士以外の士業はまったくご存じなくても当たり前です。

手続き自体は許可申請ではなく届出なので難易度が高い手続きではありません。相続手続きや相続登記は専門家に依頼することが多いと思いますが、農地相続の届出だけで考えればご自身でもすることが可能であると言えます。しかしながら、時間がなかったり面倒だと思われる場合は専門家の当事務所にお任せください。他に農地転用などがある場合は一緒に受任することが多いです。