令和6年民法改正 離婚後の子の利益を確保する法律

令和6年(2024年)5月24日に、夫婦が離婚した後の子の利益を確保することを目的とした改正法が交付されました。この法律は、令和8年(2026年)5月24日までに施行されます。

この法改正では、子を養育する親の責務を明確化するとともに、親権・養育費・親子交流(面会交流)・財産分与などに関する法律の規定を大幅に見直しています。

債務名義なしでも養育費の差押えが可能に

従来、養育費の支払いがストップした場合には、強制執行(差押え)を申立てして回収する必要がありました。そして差押えの申立てをするためには債務名義が必要です。

債務名義とは、裁判の判決書や調停調書、公正証書などです。いくら法律の強制力は働くとはいえ、人の財産を召し上げるためには強力な法律の根拠が必要とされているからです。

今回の改正により、養育費債権に「先取特権」と呼ばれる優先権が付与されるため、債務名義がなくても、養育費の取決めの際に父母間で作成した文書(離婚協議書や養育費に関する合意書)に基づいて、差押えを申し立てることが可能です。

なお、法改正の施行前に養育費の取り決められていた場合には、改正法施行後に生ずる養育費に限ってこの改正民法が適用されます。

養育費不払いの場合、離婚協議書を公正証書で作成しておけば、裁判所手続きをすることなく、すぐに強制執行(差押え)ができるメリットがありました。ところが今回の改正により公正証書ではない離婚協議書等でも同様のメリットを享受できるようになります。

一般の先取特権の順位

一般の先取特権とは、債務者の総財産から、ほかの債権者に優先して弁済を受ける権利です。一般の先取特権には順位があり、以下のとおりです。今回、養育費は第3位という高い順位で設定されています。

  1. 共益の債権
  2. 雇用関係
  3. 養育費
  4. 葬式の費用
  5. 日用品の共有

法定養育費に関する法改正

従来は、離婚するときの離婚協議や家庭裁判所の手続きにより養育費の額を取り決めていなければ、養育費を請求することができませんでした。もちろん口約束ではなく、取り決めたことを証する書面も必要です。

今回の改正により、養育費に関する取り決めをせずに離婚してしまった場合でも、子を引き取った親(親権者)は、他方に対して一定額の法定養育費を請求することができることになりました。

また、法定養育費の支払がされないときは、差押えの手続きをすることもできます。法定養育費の額は、今後、法務省令で定められる予定ですが、法定養育費は、あくまでも養育費の取決めをするまでの暫定的なものだと考えられます。

子の健やかな成長を支えるためには、夫婦間の離婚協議や家庭裁判所手続きにより、各自の収入などに照らした適正額の養育費を取り決めすることが重要といえます。法定養育費は下限金額になる可能性が大いにあるからです。

法定養育費の留意事項

法定養育費は、離婚成立の日から発生します。法定養育費の支払義務を負う父母は、毎月末にその月の分の法定養育費を支払う必要があります。また、法定養育費は、次のいずれか早い日まで発生し続けます。

    1. 父母が養育費の取決めをしたとき
    2. 家庭裁判所における養育費の審判が確定したとき
    3. こどもが18歳に達したとき

法定養育費の請求を受けた者は、支払能力がなく法定養育費の支払いができないことや、その支払いにより自らの生活が著しく窮迫することを証明したときは、法定養育費の全部又は一部の支払を拒むことができます。子と別居する親の収入が乏しい場合には、父母の協議により、法定養育費の額よりも低額の養育費を取り決めることもできます。

父母の協議によって養育費の額を取り決めることが難しい場合には、家庭裁判所に対して養育費の調停や審判の申立てをすることになります。

法定養育費の規定は、改正法施行後に離婚したケースのみに適用されます。施行前に離婚した場合には、法定養育費は発生しませんので、養育費の支払いを求める場合は父母の協議や家庭裁判所の手続きにより養育費の額を取り決める必要があります。

法定養育費の規定は、養育費の取り決め(金額だけではなく支払期間なども必須です)ができていなかった場合の救済措置と考えられます。やはりきちんと取り決めてから離婚をすることを推奨します。

養育費回収方法の法改正

養育費に関する裁判手続きでは、義務者(支払う人)と権利者(受け取る人)の収入を基礎として、養育費の額を算定します。今回の改正では、手続をスムーズに進めるために、家庭裁判所が、当事者に対して収入情報の開示を命じることができることとしています。

また、養育費を請求するための民事執行の手続きにおいては、地方裁判所に対する1回の申立てにより、以下の一連の手続きを申請することができるようになります。

  1. 財産開示手続き
    養育費の支払義務者は、その保有する財産を開示しなければならない
  2. 情報提供命令
    市区町村に対し、養育費の支払義務者の給与情報の提供を命じる
  3. 債権差押命令
    判明した給与債権を差し押さえる

 

今回の記事はここまでです。

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