別居中の生活費は婚姻費用

婚姻費用とは、夫婦や子が生活する上で必要となる費用のことです。衣食住や子の教育費などをイメージしていただければわかりやすいと思います。

夫婦は婚姻費用分担の義務を負っています。民法では、夫婦は自分と配偶者とが同じ程度の生活レベルを維持し、夫婦の財産や収入などその他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する義務があると定めています。

一般的には別居によって婚姻費用分担請求することになります。婚姻費用分担の支払期間は、離婚もしくは同居回復まで。つまり、別居していても離婚が成立していない状況においては、婚姻が継続しているのだから婚姻費用を分担する義務があり続けるのです。

離婚が成立すれば、婚姻費用の支払は終了となりますが、離婚後に子供がいる場合には、養育費というものが発生することは皆さんご存知だと思います。離婚をしていなくても発生するのが婚姻費用分担です。

婚姻費用と養育費の違い

養育費は、子を養育・監護するための費用です。子のために支払われる金銭ということになります。これに対し、婚姻費用は子のみではなく配偶者と子のために支払われる金銭です。よって、金額だけを考えると養育費よりも婚姻費用の方が高額になります。

また、養育費の支払終期は取り決めた終期までです。満20歳まで、満18歳までなど、取り決めによって支払終期は明確になりますが、婚姻費用分担は離婚又は同居回復までなので長期に及ぶことが考えられます。

別居による婚姻費用分担請求

婚姻費用の「分担」なので、収入が多い方から少ない方へ婚姻費用を支払うことになります。婚姻費用分担の金額や支払方法については、夫婦で話し合って決めることが出来ます。夫婦で協議し、合意できれば婚姻費用分担の合意書を作成することを推奨します。

婚姻費用分担は別居によって発生するのが一般的です。しかしながら別居をしただけで自動的に婚姻費用を支払わなければならないわけではありません。

婚姻費用は請求をされていなければ支払いの義務が発生しないのです。夫婦間で婚姻費用分担に関する協議が整わない場合は後述する裁判所への申立てをすることになります。この場合、裁判所へ申立てをした日が婚姻費用分担の請求をした日とされることになります。

なお、別居をする場合は婚姻費用分担以外にも取り決めておいた方がよいことも多いので、婚姻費用分担の合意書ではなく、別居に関する合意書を作成することをおすすめします。とくに完全に夫婦関係が破綻しており別居後に離婚をすることになる場合では非常に重要となる書類です。

なお、別居に関する合意書を作成せずに別居を開始し、あとで婚姻費用の請求だけをする場合は内容証明で請求することを推奨します。それでも支払ってもらえない場合は調停や審判で決することになりますが、この際に内容証明の到達日が請求の起算点となるので、より多くの婚姻費用の支払を受けることができます。

婚姻費用分担を請求しても「離婚していないのに何故支払わなければならないんだ」と言い返されることも少なくありませんが、単純に相手方が無知だからです

婚姻費用の金額は婚姻費用算定表を参考にしてみる

裁判所のホームページには婚姻費用算定表というものがあり、これを参考にすることができます。婚姻費用算定表では、婚姻費用の金額を決する要因として以下のものを使用します。

  • 子の人数
  • 子の年齢(0~14歳、15歳以上)
  • 義務者(支払う人)の年収
  • 権利者(受取る人)の年収

これらの要素を用いてグラフ状になっている算定表から参考となる婚姻費用の金額を確認することができます。一例として婚姻費用と養育費を算定表を用いて同条件で比較してみましょう。

子の人数と年齢義務者の年収権利者の年収(参考)金額帯
婚姻費用子2人(0~14歳)450万円100万円8~10万円のゾーンの上の方
養育費子2人(0~14歳)450万円100万円6~8万円のゾーンの真ん中あたり

婚姻費用分担の協議がまとまらない場合

まとまらない場合や約束していたのに支払ってもらえない場合は家庭裁判所に調停を申し立てることができます。調停では調停委員に対して主張・反論などをすることになります。配偶者と直接に話をすることはありません。

調停でも合意できない場合は、審判に移行し、諸事情を考慮して裁判官によって婚姻費用が決定されます。決定された婚姻費用分担金の支払いは請求時点まで遡ることが一般的であり、調停の申立て日に遡ります。事前に内容証明で婚姻費用を請求していた場合は到達日とされることもあります。

調停や審判の利用を推奨するケース

夫婦での協議がまとまらなかったわけではなくても、最初から調停や審判といった家庭裁判所の手続きを使用した方がよいケースもあります。例をひとつ挙げてみると、こんなケースです。

  1. 妻(年収100万円)の不貞行為が発覚した
  2. 夫(会社員で年収450万円)が妻に詰め寄ると妻は「夫が悪いから不貞行為をした」と逆上
  3. 妻は子供2人(4歳と6歳)を連れて実家へ帰り別居開始
  4. 妻は友人から教えてもらい、夫に婚姻費用分担の請求をしてきた(15万円)
  5. 夫は納得がいかず家庭裁判所に婚姻費用分担調停を申し立てた

このケースでは、妻は夫に15万円の婚姻費用分担請求をしました。しかし、先述したように婚姻費用算定表を用いると、おおよそ上限額は10万円と考えられます。

さらに夫は「別居の原因は妻の不貞行為なのに、こちらが婚姻費用を支払うのはおかしい」と考えます。おそらくこのケースでは、「妻の不貞行為が原因なので婚姻費用の内訳として妻に対する支払いは無し、子に対する支払いだけをする」というように裁判所では考えることが多いと思われます。

婚姻費用分担金の変更

なお、婚姻費用が決まってもやはり支払わない方が多数おられるようです。婚姻費用の支払が厳しくなった場合には、勝手に支払いをストップするのではなく、家庭裁判所に婚姻費用の減額を申し立てることもできます。

もちろん、どんな事情でも申立てをすれば認められるわけではありません。あくまでも裁判所に後発的な事情変更のため婚姻費用の金額変更をすることに理由があると認められなければなりません。

婚姻費用を減額するために会社を退職したり、給与が低い会社へ転職したり、非正規社員になる人までいますが、こんなリスクが高いことをする前に専門家にご相談ください。

転職や退職により一時的に収入金額を減らしたとしても、その減った金額を収入認定される保証はないからです。そうなると「辞め損」になってしまうわけです。

有責配偶者からの離婚請求と婚姻費用分担

離婚の原因を作った側を有責配偶者といいます。不貞行為やDVなど法定離婚原因に含まれるものです。有責配偶者からの離婚請求は原則認められません。

例外として一定の要件を満たしていると判断される場合は有責配偶者からの離婚請求も認められる可能性があります。その要件の中に、「離婚後に元配偶者が経済的困窮に陥る恐れがないか」というものがあります。

子がいるケースを想定すると、婚姻費用も支払わないような配偶者が離婚後に養育費を支払わないだろうと判断されてしまう恐れがあるのです。婚姻費用の支払い義務があるのに、無視しているような方の場合、離婚は認められないとされることがあるのです。

別居と婚姻費用分担のまとめ

意外と知らない方も多い婚姻費用分担。別居するだけではなく、別居をして婚姻費用分担請求をして初めて収入が多い方の配偶者に婚姻費用支払いの義務が発生します。

婚姻費用に支払いは同居回復または離婚のときまで続きます。この間に、婚姻費用の金額を変更したい旨の申立てを家庭裁判所にすることができます。

その場合に重要なことは、「婚姻費用について、何年何月何日に、何円で約束して、今までの支払い状況はこうなっている」ということを家庭裁判所に証明する必要があります。よって、婚姻費用分担についての合意書を作成しておくことがポイントです。

さらに、別居する場合は婚姻費用以外にも重要な取り決めをしておくことをおすすめします。そこで、婚姻費用分担に関する合意書ではなく、別居に関する合意書を作成するのです。別居に関する合意書であれば、将来に離婚することになった場合に役立つこともあります。

今回の記事はここまでです。

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